小浜湾で育つ、新しい担い手と養殖のかたち
海の温度が変われば、海で営まれてきた仕事も変わらざるを得ません。福井県小浜市の小浜湾では、夏場の高水温や担い手不足という課題に向き合いながら、牡蠣養殖の次代を形にしようとする人たちがいます。そして、学びと現場を往復してきた石田律貴さんもその1人です。

石田さんが関わってきたのは、「若狭こはるかき」と「若狭うららかき」という2つの新しいブランド牡蠣です。目指しているのは、単に新しい名前の牡蠣を世に出すことではありません。変わりゆく海に適応し、手をかけて品質を磨き、地域で養殖を続けられる仕組みを育てることです。1粒の牡蠣には、小浜湾の風土と、未来へつなぐ意思が宿っています。
学びを、湾の現場へ
石田さんは福井県立大学先端増養殖科学科で学び、小泉晶さんとともに、大学の30周年プロジェクトで開発された2つのブランド牡蠣の実用化試験に取り組みました。学生サークル「美食倶楽部」のメンバーとして、小浜市内の若手漁業者とともに試験を進め、その結果を取りまとめています。
その成果について、石田さんと小泉さんは第26回ジャパン・インターナショナル・シーフードショーのセミナーで講演しました。第1回みどり戦略学生チャレンジ北陸大会では、2つの特別賞である若手取材班賞とリスペクト賞を受賞し、2人は大学の第31回つぐみ賞も受けています。研究室の中だけで完結させず、食と地域産業の未来として伝える姿勢が、石田さんの活動の輪郭をつくっています。
2つの牡蠣が示す、海への応答
「若狭こはるかき」は、小浜湾で天然採苗した種苗を小浜湾で養殖する、純小浜産のマガキです。北川と南川、そして海底からの地下水がもたらす豊かな栄養環境を生かし、湾の個性を育てる試みです。対して「若狭うららかき」は、高水温への耐性が期待される3倍体マガキです。産卵しないため栄養を失いにくく、夏場にも身がやせにくい特性に着目して開発されました。
2つは競い合う品種ではなく、異なる課題に応えるための選択肢です。天然種苗に依拠する「こはる」には、採苗量が年ごとに変動しやすい難しさがあります。「うらら」には、海洋環境の変化を見据え、夏季を含む周年出荷につなげる役割が期待されています。地域の牡蠣を1つの答えに絞らず、海の条件に応じて育て方を広げていくことが、養殖を続ける力になります。
手間を惜しまない、シングルシード方式
2つのブランドに共通するのが、シングルシード方式です。牡蠣をバスケットやかごの中で1粒ずつ育てるため、形の整った牡蠣を育てやすい一方、管理には細やかな手作業が欠かせません。かごを定期的に引き上げて藻類などの付着物を落とし、成長に合わせて大きさ別に入れ替えます。日光に当てる際にも、当てすぎるとへい死することがあるため、細心の注意を払います。特に夏は藻の成長が速く、作業を重ねる必要があります。
この手間は、効率だけでは測れません。1粒ごとの成長を確かめることは、海の変化を早く受け取ることでもあります。「若狭こはるかき」は生育期間が比較的短く、「若狭うららかき」は周年出荷の可能性を広げます。手仕事と技術を重ね、年間を通じた安定供給を目指す営みです。

連携が育てる、地域の仕事
このプロジェクトは、石田さんだけが担うブランド開発ではありません。小浜市、小浜市漁業協同組合、福井県立大学、地元漁業者、学生、当時の地域おこし協力隊が、それぞれの知識と役割を持ち寄る産学官・地域連携です。2025年の大学の研究成果発表会案内には、小泉さんと石田さんのほか、当時小浜市地域おこし協力隊だった坂田凱斗さん、小浜市漁業協同組合の大住一平さん、浜口昌已教授が、「小浜湾発の新ブランドガキの創出」の発表者として記されています。
現場での養殖試験には、地元漁業者の協力があります。小浜市漁業協同組合の松下卓也さんは、年間を通じて小浜市でカキを食べられるようにしたいという思いを語っています。学生の探究、研究者の知見、漁業者の経験、地域の伴走が交わって初めて、ブランドは海に根を張ります。
若者たちの時間を映す、もう1つの記録
NHK「ディープザウルスふくい」の「“夏”うらら 〜小浜の牡蠣と若者たち〜」は、2026年7月17日に初回放送されました。番組の公開情報は、新たなブランド牡蠣を開発・普及しようと奮闘する若手生産者、牡蠣研究を行う学生、そして牡蠣に魅せられた若者たちの日々を紹介しています。
牡蠣は、海から得る恵みであると同時に、地域が未来を選び取るための問いでもあります。石田さんたちが積み上げる実験、対話、手作業は、遠い未来のためだけのものではありません。小浜湾で牡蠣を食べ、働き、学ぶ時間をこの先にも残すための、今日の挑戦です。活動に触れ、その1粒を味わうことは、地域の海を応援することにもつながります。
活動を知るために
石田律貴さんの公開プロフィールと発信は、石田律貴さん Instagram(@rikkiponta)からご覧いただけます。滞在や食、牡蠣養殖などの発信は、WAKASA 蔵の宿 Instagramでも紹介されています。
生産者の取り組みと商品の案内は、大住牡蠣養殖場および大住牡蠣養殖場 Instagramをご覧ください。海と食をテーマにした学生向けプログラムは、THE BLUE CAMPとTHE BLUE CAMP Instagramで発信されています。
プロジェクトの公表情報は、小浜市漁業協同組合の記事、NHK「“夏”うらら 〜小浜の牡蠣と若者たち〜」、福井県立大学「第31回つぐみ賞」、福井県立大学「30周年研究プロジェクト」で確認できます。
プロフィール/プロジェクト概要
人物
石田律貴。福井県立大学先端増養殖科学科での実用化試験・成果発表に関わり、学びと養殖の現場を行き来しながら「若狭うらら牡蠣」の挑戦を支えています。
連携体制
小浜市、小浜市漁業協同組合、福井県立大学、地元漁業者、学生、地域おこし協力隊による産学官・地域連携です。
若狭こはるかき
小浜湾の天然種苗を用いる、純小浜産のマガキです。
若狭うららかき
高水温への耐性が期待される3倍体マガキです。
養殖方式
2つのブランドとも、牡蠣を1粒ずつ育てるシングルシード方式を採用しています。
目指す未来
海洋環境の変化と担い手不足に応答し、手作業による品質管理と年間を通じた安定供給を目指しています。
