ー山口・仁保の谷あいで続く、ケミカルフリー養蜂と里山再生ー
株式会社ときつ養蜂園|山口県山口市仁保|ケミカルフリー養蜂・無農薬農業・養蜂観光農園

ミツバチが減る、ということ
日本の農業が抱える課題のひとつに、ミツバチの減少がある。農薬、病気、そして養蜂家の高齢化。はちみつが採れなくなるだけの話ではなく、野菜や果物の多くはミツバチの受粉があってはじめて実る。産地の受粉基盤が細れば、食料生産の土台そのものが揺らぐ。
その課題に、山口市仁保の谷あいから向き合い続けている養蜂園がある。農薬・抗生物質・除草剤を一切使わないケミカルフリー養蜂を貫く、株式会社ときつ養蜂園だ。代表の時津佳徳氏は山口県養蜂組合の理事長として、県内養蜂家の飼育調整や受粉用ミツバチの供給調整も無償で担っている。
「美味しいはちみつを作りたいというより、ケミカルフリーで養蜂をしたいという気持ちのほうが、ずっと先にありました」——代表・時津佳徳
病がくれた「食が命をつくる」という確信
福岡県小郡市に生まれた時津氏は、山口大学で数学を学び、山口県警察官として働いた。農業への夢を捨てきれず退職を決めた矢先に癌が見つかり、1年間の闘病生活に入る。
「抗がん剤治療を受けながら、食のことばかり勉強していました。食が命をつくるんだと、頭ではなく身体で分かった1年でした」
祖父の西村静は、日本養蜂協会の副会長を務めた養蜂家だった。「農業は尊いぞ。ミツバチはいいぞ」。幼い頃からそう聞かされて育った時津氏は、回復後の2015年に山口市の認定新規就農者となり、妻の志帆氏とともに夫婦二人で養蜂を始める。2021年に法人化し、現在は役員2名・正社員6名・パート4名の12名で、養蜂、田畑、果樹園、直売所、食品加工、飲食、キッチンカーという七つの現場を回している。
「Bees First」——判断基準はひとつだけ
ときつ養蜂園の判断基準は「それはミツバチにとって良いことか」。この一点で決めるので、農薬も除草剤も抗生物質も使えない。養蜂に付きものの寄生ダニの駆除も薬剤には頼らず、天然ハーブと手作業で行う。全国でも数少ない、圧倒的に手間のかかるやり方だ。巣箱の飲み水にはFFC水を使い、巣箱内の温度・湿度・重量はセンサーで常時記録して、職人の勘に頼ってきた技術を引き継げるデータに変えつつある。
作業の多くは、あえて素手で行う。彼女たちの機嫌を、手のひらで感じるためだ。こうして採れたはちみつは加熱も加工もせず、絞ったままを瓶に詰めて届ける。残留農薬不検出であることは、毎年、第三者機関の検査で確かめている。上品なコクとまろやかな舌ざわりの違いは「口に入れて5秒でわかる」と、常連のお客様は言う。
「私たちはミツバチを『彼女たち』と呼びます。家畜でも道具でもなく、環境を一緒に守っていくパートナーだからです」

内容
農薬・抗生物質・除草剤
一切不使用(ケミカルフリー)
はちみつ
非加熱・無加工。残留農薬不検出を毎年検査で確認
スイーツ
砂糖・小麦不使用。自社の米粉とはちみつだけで甘みをつける
体制
役員2名・正社員6名・パート4名の12名。指示を待たず、各自が先回りして動く
主な販路
直売所、自社EC、ミツバチキッチンカー、企業向けOEM、ふるさと納税
クマ被害と、それでも変えなかったこと
2024年9月、3,000万円相当のミツバチと巣箱がクマの被害に遭った。記録的な不作も重なり、蜂群は半減。ここで時津氏は卸売をすべて止め、値引きをせず、自園のはちみつで企業のブランド品を受託製造するOEMと直販に販路を絞った。減産の年にも増収を守り、いま蜂群は年度末の200群に向けて増やしている最中だ。
被害を出したクマは危険と認定され、県の判断で殺処分となった。もともと彼らの棲む山に人間が入らせてもらっている——その思いで電気柵を工夫し共存の道を探ってきた矛盾と向き合うため、毎年その日には社員一同で現地に立ち、供養を続けている。
88(HACHIMAI)——耕作放棄地を、レンゲ畑に戻す
無農薬の米づくり「88(HACHIMAI/はちまい)」は、山奥で引き受け手のいなくなった耕作放棄地に重機を入れて復元し、レンゲを播くところから始まる。彼女たちが蜜を集めたあと、役目を終えたレンゲが緑肥になり、その田んぼで伊勢神宮の神田に由来する品種イセヒカリを、農薬も化学肥料も使わずに育てる。企業が1反単位で栽培を受託(事前購入)する協賛モデルとして、CSR・ESG活動と結んだ無農薬米の新しい市場を開いた。無農薬の管理面積は2024年度の1.4haから2026年度は4.1haへ広がり、3年後に水稲10ha、5年後に20haを目指している。
「順番が逆なんです。彼女たちのために土地を耕し、花を植える。その副産物として、人間が安全なお米をいただく」

ビーとぴあビレッジ——「ほどよく人の手が入った里山の理想郷」
2025年9月に開園した養蜂観光農園「ビーとぴあビレッジ」は、果樹園5haと山林を含めて約15ha。ブルーベリー、サクランボ、キウイ、クリ、柚子など、彼女たちの訪花で実る樹種だけを植え、来園者や子どもたちが自分で苗を植えて、3年後に自分の木から実を収穫できる仕組みにしている。園内にはヤギのマメとメイも暮らす。年間来園者は約1万人、香港など海外からも年間約50名が訪れる。
再生中の古民家3軒のうち、築180年の岡部邸は飲食・宿泊施設として改修を進めている。有事にも食とエネルギーを自給できる防災拠点としての役割も持たせ、時津氏はこれを「現代版ノアの方舟」の心臓部と呼ぶ。
「外国や巨大なシステムに依存せず、自分たちの足で立ち、食とエネルギーを分かち合う。人間が手を入れることで自然はもっと豊かになる。その証明を、この谷でやりたいんです」
はちみつ色と紺色のミツバチキッチンカーは県内各地のイベントで行列ができる人気で、パティシエが手づくりするはちみつスイーツを求めて県内外から人が訪れる。小中学校への出前授業は毎年続けており、受講した子どもたちは延べ約300人。ARスマートグラスで、刺される心配なく巣箱の中を覗ける体験の実証も進めている。
ZIPANG DAOへの参画——里山の知恵を、次の世代と世界へ
「もったいない日本を、世界の宝に」というZIPANG DAOのビジョンと、耕作放棄地という「もったいない」資源を蜜源に変えてきたときつ養蜂園の歩みは、根が同じだ。農薬に頼らない循環型農業、ミツバチと人間の共生。日本の里山が大切にしてきた「自然と共に生きる」知恵を次の世代と世界に手渡すため、ときつ養蜂園はZIPANG DAOの出展企業として参画する。山口の小さな谷あいから、静かに、確かに。
会社概要
会社名
株式会社ときつ養蜂園(認定農業法人)
代表取締役
時津 佳徳(ときつ よしのり)
設立
創業:2015年5月1日 / 法人化:2021年10月29日
所在地
山口県山口市仁保下郷561-1
事業内容
はちみつ及び農産物の生産・販売/農薬・化学肥料不使用の農業生産(米、タケノコ、果樹、野菜)/はちみつを使った菓子製造・販売/養蜂観光体験/古民家再生/地域での教育/地域創生
公式サイト
@tokitsubeeslifefarm

